新入生の諸君、三重大学に入学してくれてありがとうございます。大学の1年生は、教養教育の授業を沢山履修することになりますので、よろしくお願いします。
このブログのタイトルは、ニュートンの有名な言葉「もし私が人より遠くを見ることができたとしたら、それは巨人たちの肩の上に立っているからだ」から引いたものです(実は、レナード・ムロディナウ『この世界を知るための人類と科学の400万年史』河出書房新社(2016)からの孫引きですが)。ニュートンですら、巨人の肩の上に乗らなければ、遠くを見ることができないのです。
新入生向けの履修案内で、2011年の米映画『優しい無関心』の中で主役の高校教師が言った言葉「権力を持っている人々は、他の人々を支配しようとする。その支配から自分自身を守るために、読書が必要なんだ」も紹介しています。
是非本を読んでください。最近の若者は本を読まないと言われています。新入生ガイダンスを聞いて、「大学1年生ってなんと沢山の授業を受けなくてはならないのだ!」と思っているしれませんが、自由になる時間が高校生の時よりは、沢山あるはずです。1年生の後期には、新書を読んで書評を書く「教養セミナー」という授業もあります。
先に引用した『この世界を知るための人類と科学の400万年史』は400ページ余り(文庫版だと上下2分冊)でやや分量が多いですが、とても面白い本です。偉大な科学の巨人たちが、悩んだり、間違ったり、躊躇したりする様子が丁寧に描かれていて、とても勇気づけられます。著者は理論物理学の研究者であり、また『新スタートレック』の脚本を書いていたりする人です。若い諸君には縁がないかもしれませんが、SF作家アイザック・アシモフの『ファウンデーション』3部作が参照されていたりするところ魅力です(まあ僕と著者がほぼ同年代で子供の頃の娯楽体験が似ているからかもしれません)。
この本とほぼ同趣旨の本として、ビル・ブライソン『人類が知っていることすべての短い歴史』NHK出版(2006)があります。決して短い本ではなく、700ページ余りあって、文字のフォントも小さいので、ムロディナウの本よりもかなり分量があります(こちらも文庫では上下2分冊)。しかし分量が多いだけあって、多くの科学者のより細かいエピソードが拾い集めてあり、科学者の人間らしさがより際立っています。僕は、粒子加速器を用いて素粒子が沢山発見されるようになったときに、エンリコ・フェルミが、学生にある素粒子の名前を聞かれて「きみ、もし素粒子の名前を全部覚えられるなら、私は植物学者になっているよ」と言ったというエピソードが印象に残ってます。僕は景観を中心とした環境の専門家と自称していますが、景観に重要な役割をはたす筈の植物の名前が全く覚えられないからです。ビル・ブライソンは、アメリカのベストセラーエッセイストで、沢山のおもしろい本を書いています。1月の院長ブログでも『ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験―北米アパラチア自然歩道を行く』中央公論新社 2000を紹介しています。
ぜひ、今回紹介した2冊の本を読んでみてください。なんとなく遠くが見えるようになった気がすると思います。そして、大学でもっと学んで、もっとずっと遠くを見通してください。
ちなみに写真は、石を投げて巨人ゴリアテを倒したというダビデの像(シニョリーア広場に置いてあるレプリカ)です。