2017年あたりにベストセラーになったユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』河出書房新社(2016)のバンド・デシネ版『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』河出書房新社(2020)を読みました(バンド・デシネ(略称BD)とはフランス語圏のマンガのことです。一番有名なのはエルジェ『タンタンの冒険』シリーズでしょうか?日本では絵本に分類されていますがニコル・ランベール『三つ子ちゃん』シリーズも)。
本家『サピエンス全史』の前半4分の1程度の内容が漫画になっています。たぶんフランス語版の英語訳を日本語訳したものです。フランス語版でも英語版でも、第1巻と書いてあるので残りの部分も漫画化されるのを期待しています。
この日本語版の副題に「人類の誕生」とあるように、第1巻はかつて地球上には何種ものヒトがいたのに、「なぜホモ・サピエンスだけが繁栄したのか?」が中心の話題です。大変面白く、様々な場所でホモ・サピエンスの生き残り方が多様であることがわかりやすく書いてあり感動的でした。同じように、古市憲寿『絶対に挫折しない日本史』新潮新書(2020)も、そもそも日本の範囲が時代によって異なるし、場所場所で異なった歴史を歩んできたことが強調してあって面白く読みました。そんなことは当たり前のことかもしれませんが、僕は歴史音痴なので、両方とも新鮮でした。
英語圏でバンド・デシネに似たものは、グラフィック・ノベルと呼ばれています。単なるコミックよりはストーリー重視で、ある程度大人が読むものだということを強調しているのだと思われます。今はあまり言われないように思いますが、我々の若いころは、子供向けの漫画と区別するために劇画というジャンルがありました。一昔前には、漫画を大人が読むのは恥ずかしいとされていたので、生まれてきた言葉なのでしょう。特に欧米では大人はマンガを読まず、電車の中で日本の大人が漫画を読んでいるのを見ると驚きだというようなことが言われていたように思います。
現代ではたぶん欧米でも認識が変わって来つつあります。例えば、フランス語圏の電車の中で、立派な大人が浦沢直樹『マスターキートン』を読んでいるのを見たことがあります。ついこの間シーズン2が終了してしまった『グッドファイト』(NHKで日曜日の11時から放送)の中では、ナイジェリア生まれの優秀な調査員ジェイがグラフィック・ノベルを描いていて、それに美術的価値があるということでアインシュタイン・ビザ(アインシュタインももらった一芸ビザ)をもらいます(もっともドラマ中の裁判では、単なる漫画家はアインシュタイン・ビザに相応しくないと言われていますが)。
ヤングアダルト小説に触れた前のブログで、ドバイにはYA小説である『ハンガー・ゲーム』のテーマパークがあると書きましたが、フランスにはBD『アステリックス』のテーマパーク「パーク・アステリックス」があります。パリのディズニーランドが不人気の頃は、「パーク・アステリックス」の方が遥かに集客していると言われていました。
教養教育の後期の必修科目『教養セミナー』では、第1回目の授業時に各自好きな本を持ち寄って、ビブリオバトルを行います。その際には、かなりの数の学生たちが漫画を持ってきて、熱くバトルを行います。たまには、バンド・デシネやグラフィック・ノベルも読んでみてください。
ちなみに写真は、フォアグラになるガチョウたちです。全く本文と関係ありません。