初めまして、新院長になりました。はじめての院長ブログです。何を書いたらいいのか迷いました。今年の新入生向けの履修案内は、次の文章で始めました。
「権力を持っている人々は、他の人々を支配しようとする。その支配から自分自身を守るために、読書が必要なんだ」これは、2011年の米映画『優しい無関心』の中で主役の高校教師が言った言葉です
この映画では、この言葉の前に「『1984』を読んだか?」と聞いています。そこで、最初のブログは、『1984』に関連する本や映画や音楽の話にすることにしました。
『1984』は、1949年に書かれたジョージ・オーウェルの非常に有名な小説です。(1949年から見た)近未来の超監視社会を描いたものです。『1984』で描かれたような社会が現実に近づいていると何度も言われてきています。近年のAI、衛星写真、GPS、スマホ、防犯カメラなどの発達を見ると、ますます現実に近づいているような気がします。
『1Q84』は、2009年の村上春樹の小説です。明らかに『1984』をもじっています。2009年6月の読売新聞のインタビューでも「『1984』を土台に、近い過去を小説にしたいと以前から思っていた」と言っていたようです。
『1999』は、ソウルミュージックの貴公子プリンスの1982年のヒット曲です。プリンスの歌詞では、例えば「for you」を「4 U」と書くようなことがよく行われていました。村上春樹の『1Q84』は、この流れで名づけられたのではないかと思っています。
『Fahrenheit451』は、1953年に書かれたレイ・ブラッドベリの小説です。Fahrenheitは僕たちが馴染んでいる温度の単位の摂氏ではなく、華氏を意味します。ディオールの香水の名前としても有名です。華氏451度は、およそ摂氏233度です。紙が燃えはじめるのが、この温度と言われています(理科年表によると、新聞紙の発火点が摂氏290度)。本を燃やしてしまうことに代表される情報統制、監視社会が描かれています。
『Fahrenheit 9/11』は、2004年に近藤春菜でおなじみのマイケル・ムーア監督が作った映画で、そのタイトルはFahrenheit451と9・11にちなんで名づけられています。Wikiによるとどうやら「ファーレンハイト9999」というオタク文化が規制されている世界を描いた小説もあるようです。
『2049』は、2017年のアメリカ映画で、1982年制作の『ブレードランナー』の続編です(正しいタイトルは、『ブレードランナー2049』)。『ブレードランナー』は、1968年のP.K.ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の映画版です。この小説題名をもじった小説や漫画も沢山あります。人間とAIの違いを問いかける作品です。映画版では前作の方がヒットしましたが、この『2049』の方が原作小説のイメージに近くて好ましいです。
最初のブログから、なんだか暗い未来を予感させるようなものばかり紹介してしまいました。教養の英訳、リベラル・アーツとは、「自由であるための技術」と理解することができます。教養教育は、学生諸君が自分自身を守って、自由に考えることができることに役立ちます。教養教育で学んで、これらの小説や映画で描かれているような世界ではなく、自分自身を確立し、だれもが自由でいられる世界を築きましょう。では、教室でお会いしましょう。
ちなみに写真は、割といい環境で育てられているなんか幸せそうな食肉用の豚です。かつて東大総長が言ったとも、ミルの引用間違いとも言われている名言「太った豚になるよりは、痩せたソクラテスになれ」を象徴したつもりではありません。