先日、「三重大学教養教育シンポジウム2021」が開催され、教養教育カリキュラムと組織の7年半の検証を行いました。そこでは、そもそも「教養とは何だろう」ということも問題とされ、「専門家主義」と「教養主義」のせめぎ合いも話題になりました。「専門バカ」ではない本物の「専門家」を育てるにはどうしたらいいのでしょうか?
「専門バカ」と聞いて、真っ先に思い出したのが、ベストセラーになったM・スコット・ペック『平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学』草思社(1996)でした(なんとウィキペディアにも載っています)。この本の5章が「集団の悪」についてで、僕の記憶によると、「専門家集団は必ず邪悪化する」という表現があったと思っていました。今回改めて探してみると、その表現はありませんでしたが、主旨はこの通りと思います。
著者のペックは、精神科医でアメリカ軍に勤務し、ベトナム戦争の「ソンミ村虐殺事件」の心理学的要因を探る3人の精神科医からなる委員会の委員長でした。「個人としては邪悪ではないと思われる500人近くの人間の全員が、ソンミ村で行われたような非道な悪に、なぜ加わったのだろうか」という疑問の下で、「集団の悪」を検討しています(学生諸君は、「ソンミ村虐殺事件」を知らないかもしれないけれど、これもウィキペディアに載っています)。ペックは、完全徴兵制度になれば、「専門家集団」に素人が紛れ込むので、軍隊を健全に保つことができると言っています。大学教育をどうすべきかという話は難しいですが、少なくとも大学に入りたての1年生たちは、「専門家集団」である大学教員たちの精神を健全に保つために役立つんではないかと思います。
狂気と言えば、映画『ヒトラー 〜最期の12日間〜』(2004)を見ました。ヒトラーの実像を、思慮深く表現していると評判の映画です。ドイツ、オーストリア、イタリア共同制ですが、若干ドイツ人びいきであるようにも感じました。この映画の原作は、同名で2005年に岩波書店から発行されています。著者のヨアヒム・フェストは、ヒトラー伝記の最高傑作と言われる『ヒトラー』河出書房新社(1975)も書いています。
このヨアヒム・フェストの伝記に対して、ヒトラー時代の意味を書いたとされるのが、セバスチャン・ハフナーの『ヒトラーとは何か』草思社(1979)です。この本は13歳の少女の新聞への投書「厚くなくてやさしいヒトラーの本が読みたい、そんな本が読めれば、若者は物を知らないと言われなくともすむのに」に応えたもので、当時ドイツでベストセラーになったようです(現代のわれわれの基準からすれば、十分に厚くて難しいようにも思いますが)。
人々がヒトラーを信頼するに至った大きな原因の一つとして、600万人の失業者に職を与えられるようになった経済奇跡があげられることを、無知な僕はこのハフナーの本で初めて知りました。この奇跡が偶然起こったのか、必然かはさておき、経済的に豊かにしてくれる治家を人々は信頼してしまうのですね。ナポレオンが人気を博した理由の一つにも、経済政策がうまくいったこともあるようですから。ちなみに本年2021年は、ナポレオンの没後200年です。
もう12月なので、写真はクリスマスっぽいものを載せておきます。