ミュージカル『キャッツ』の実写映画版『キャッツ』の評判が大変悪い。最低映画の祭典第40回ゴールデン・ラズベリー賞で6部門も受賞したらしい。個人的にはテイラー・スイフトもかわいかったし、そんなに面白くなかったわけじゃないと思う。人間と猫のCG合成が気持ち悪いというのが、悪評の原因みたいだけど、じゃあ元々の舞台衣装はどうなんだろう?
今から30年以上前に、ロンドンの劇場が集中しているウエストエンド・ニューロンドン劇場で、はじめて見た『キャッツ』は衝撃だった。劇場に入った途端から猫の住むゴミ捨て場の雰囲気があり、ネタバレになるけど、舞台と前の方の客席が回ってくる。これだけで大感動だった。
ロンドンのど真ん中にあるのに激安で、トイレとシャワーが共同の救世軍が経営しているホテルに泊まって見に行った。今の若い人には知らない人も多いと思うけど、救世軍は、キリスト教の一派で慈善団体でもある。少し前は、年末に社会鍋という鍋にお金を投げ込んでもらう募金活動をする姿をよく見かけた。立派な活動をしているのだが、比較的保守的な考えのグループなので、現代では非難されることもある。ともかく安くて清潔で最高のホテルだったけど、たぶん今はない。
キャッツの原作は、ノーベル文学賞受賞詩人のT・S・エリオットである。難しくて良くわからないのだが、15篇の「野良猫あるある」的な詩なんだと理解している。20世紀最大の詩人と言われているみたいだが、残念なことに他の作品は読んだことがない。
『キャッツ』は、娼婦猫グリザベラが天上にあがるところで終わる。これは、マグダラのマリアを象徴していると言われている。聖書には、実はたくさんマリアという名前の女性が登場する。当然最も有名なのがイエス・キリストの母親の聖母マリア。次に有名なのがこのマグダラのマリアで、一般的にはイエスに救われた罪深い娼婦というイメージがある。これはグリザベラの役どころと、ぴったり一致している。実際のマグダラのマリアが何者なのかについては議論がある。これは、例えば岡田温司著『マグダラのマリア』(中公新書)などを読んでみて欲しい。美術作品にも多く登場するので、読んでおいて損はない。マグダラのマリアは、多くの人に衝動を与える存在のようである。
欧州の比較的南の地域では、マリア様信仰が強い。少しフランス語勉強して、「ノートルダム」が「私たちのクイーン(トランプのクイーンはフランス語でダーム)」、つまり聖母マリア様信仰だと初めて知った。聖母マリア信仰は、欧州各地で盛んである。一方、フランスの美しい田舎プロヴァンス地方などは、マグダラのマリア様信仰が盛んなことで有名である。
『キャッツ』は、アンドリュー・ロイド・ウェバー作の音楽とダンスが単純に楽しいんだけど、上で書いたような異文化理解的な知識があるともっと面白くなると思う。ぜひ教養で、異文化の理解を深めて、いろいろ楽しんでください。
ちなみに写真は、我が家のなかなか人に触らせない、わがままいっぱいの猫である。