三重大学 教養教育機構 機構長だより
2016年5月 記事一覧

嫌われる勇気

先回の「機構長だより」で、昨年度の教養ワークショップで書かれた書評のうち最も多く取り上げられた本が『友達地獄-「空気を読む」世代のサバイバル』(土井隆義著、ちくま新書)だとお伝えしました。この本では、対立の回避を最優先にする若者たちの人間関係を「優しい関係」と呼び、お互いが空気を読み、傷つけあわないように暮らしながら、逆にそれが息苦しさを生み出している実態が描かれています。

この本が多く取り上げられているというのは、学生たちが共感するところが多かったからにちがいありません。書評では、自分たちが「優しい関係」の中にいることを認め、あえて「『優しい関係』の中で生きづらさを抱えながら日々を送りたい」と言っている学生もいます。その一方で、著者は「安定した自己肯定感を得るには自分中心ではなく自分を相対化する視線を身につける必要があると述べている。しかし、その具体的な方法は述べていない。」と批判している学生もいます。どこかにこの息詰まるような関係を抜け出したいという思いがあるのかもしれません。

5月19日と20日に高松で「国立大学教養教育実施組織会議」が開催され、全国の教養教育の責任者の方々の前で、三重大学の新しい教養教育について報告をしました。書評集も配布し、教養ワークショップの報告もしました。ありがたいことに、みなさんその場で書評集を開いて、読んでくださいました(写真)。報告の締めくくりに、「この改革を必ずしも大学の全員が支援してくれたわけではなく、批判的な人たちもまだいます。このところ私の愛読書は『嫌われる勇気自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎/古賀史健著、ダイヤモンド社)です。」と言ったら、(おそらくは)共感のこもった笑いが起こりました。また、会議の終わりのあいさつで、ある大学の理事の方も「私も理事室に『嫌われる勇気』を置いています。」とおっしゃっていました。

『嫌われる勇気』は今やベストセラーなのだそうです。アドラーは「他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを恐れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない。つまり、自由になれない」(『嫌われる勇気』)と言っているそうです。「友達地獄」から抜け出すために必要なのが「嫌われる勇気」なのかもしれません。

私自身も若いころはできるだけ周りに嫌われないようにと生きていたような気がします。ただ、自分の信念、主張を貫かざるをえない立場になったとき、どうしても他人とぶつかることになります。私もこの年になって少しだけ「嫌われる勇気」を持てた気がしています。その結果、嫌われた分だけ味方になってくれる人たちのありがたさが身に沁みます。若い人たちは無理して嫌われる必要はないと思いますが、ただ、どうしようもなくなったときには「嫌われる勇気」を持てばいいんだと思うことは、今の息苦しさを耐え抜く力になるような気もします。