私たちの夢
電車が江戸橋駅に近づくにつれて三重大生らしい若者の姿が増えてくる。どいつもこいつもスマホとやらに夢中だ。メールか、ラインか、よく知らんが、年寄りが立っているというのに、まったく近頃の若い奴らは...、と思っていたら、女子学生が席を譲ってくれた。やれやれと座って、ふと横を見てみると、なんだこれは。スマホじゃない。あっちも、こっちも。なんで彼らは新書に読みふけっているんだ・・・
実はこれはまだ本当の話ではありません。毎週火、木の昼休みに弁当やコーヒーをもって教養教育の教員たちが集まって「FD懇話会」というのをやっているのですが、「教養ワークショップ」の話題になったとき、こんなふうになったらいいね、という話が出たのをもとに私がへたな小話を作ってみた次第です。
「教養ワークショップ」というのは、「自律的能動的学修力の育成」という新しい教養教育カリキュラムの理念に基づいて10月から開講されている1年生全員が必修の授業です。30人程度のクラスで、4~5名のグループに分かれて授業が行われます。まず、最初はグループでの自己紹介からですが、ここでは「ビブリオバトル」(http://www.bibliobattle.jp/)という方法を使っています。
学生に自己紹介してもらうと1分ともちません。ビブリオバトルでは5分間持ってきた本の紹介をするのですが、原稿なしで5分間話をするのはたいへんなことのようです。そもそもどんな本を持ってくるか、そして、それをどのように紹介するかで、その人の人柄がわかってきます。お互い知り合うにはよい方法だと思います。谷口忠大先生の『ビブリオバトル』(文藝春秋)には「本を知り人を知る書評ゲーム」という副題がついています。先日は、教員の研修会でもビブリオバトルをやってみました。みんな楽しそうでした。それぞれ教授会ではうかがい知れない顔があるようです。
授業では、学生たちは自分で一冊新書を選んで読みます。新書と言ってもいろいろな種類のものがありますが、要約して書評を書くということから「論説文」に限ることにしています。例として100冊ほどのリストを作って、図書館と生協の書籍売り場においてもらっています。7回目の授業では、今度は自分が読んだ新書をグループ内で紹介します。そして各自が紹介した中からグループで読む新書を一冊選びます。現在は、グループで読書計画を作って、毎週読んだ内容を確認し、議論しているところです。このあとそれぞれが書評にまとめることになります。
中には新書を「新しい本」と思っている学生もいるくらいですから、開いたこともないというのはごくふつうでしょう。これをきっかけに新書に限らず、本を読む楽しさに気づいてほしいと思っています。そしていつかは、電車の中で学生たちが本に読みふけっている姿を見て市民の方々がびっくりする、というのが今の私たちのささやかな、だけどなかなか実現困難な夢なのです。

三重大学 教養教育機構長
井口 靖
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