評判の悪い授業
この「機構長だより」を始めて2年半くらいになります。近頃、「読んでます」とか「楽しみにしてます」というおことばをいただくことが多くなりました。涙が出るほどうれしく、ありがたいことなのですが、そんだけ期待されてもなあ、もう書くネタないなあと密かに悩んでいます。さらに悪いことに、前回の「バベルの塔」の評判が思いのほかよくて、自分でハードルを上げてしまいました。
一方、教養教育には「評判の悪い」というべき授業があります。後期の授業、教養ワークショップでとっているアンケートで、昨年、ずばり「この授業の評判はあまりよくないです」で始まるものがありました。先輩などからも「めんどくさい」と言われているようです。さすがにがっくりします。私たちはよりよい授業をしようと何度も話し合いや研修会を行っており、先日も教養ワークショップでやるビブリオバトルを教員自身が体験しました(写真)。
しかし、そう思っているのはこの学生だけではないようです。本学では前期と後期の終わりに授業改善アンケートを実施していて、その最初の質問は「この授業に満足しましたか」です。教養教育の中でこの満足度が最も低いのが、前期が「スタートアップセミナー」で、後期が「教養ワークショップ」です。これらの共通点は、必修でクラス分けがあり(つまり自分で選べない)、グループ活動があり、授業外の学習や活動が前提とされるということでしょう。
スタートアップセミナーはグループで課題を発見し、情報を収集し、議論し、その成果を発表するものです。これらを授業内で全て行うことはできません。また、教養ワークショップは新書(論説文)を読んで、グループで議論し、各人が書評にまとめます。本を読んだり、要約をしたり、書評を書いたりはそれぞれが授業外で行うことになります。アンケートには授業外にどれだけ時間をかけたかという質問もあります。これら科目の授業外学習時間は他の科目に比べ圧倒的に多いのです。確かにめんどくさそうです。
人文系の学生は別にしても、一般に今の学生はそもそも本を読むのが嫌いか、苦手なようです。そんな学生にはとっては「魔の教養ワークショップ」が間もなく始まることになります。どう対応したらよいのか、先日救いを求めて、よく売れているという丹羽宇一郎『死ぬほど読書』(幻冬舎)という本を読んでみました。「人が生きていく上で大事なのは、仕事と読書と人間関係と、そこからくる人間への理解である」とおっしゃっています。さすが伊藤忠の社長から中国大使までされた方のおことばは説得力がちがいます。ただ、私などが同じことを言っても今時の学生には響きそうもありません。
でも別の救いもあります。三重大学は教育方針として、4つの力(感じる力、考える力、コミュニケーション力、生きる力)の育成を掲げています。授業改善アンケートではこれらの修得を自分でどう評価するかも問います。「この授業は『コミュニケーション力』を身につけるのに、役立ったと思う」については、スタートアップセミナーが前期教養教育で最も高い数値を示しています。「この授業は『考える力』を身につけるのに、役立ったと思う」については、後期、教養ワークショップがトップです。学生たちは不満をかかえながらもその効果を認めざるをえないようです(と言いたい)。
ところで、上であげた「評判はあまりよくないです」と書いた学生ですが、そもそも読書が大嫌いで「本をまったく読まない」のだそうです。それを無理やり読まされるのですから、期待して来るわけがありません。それでもがんばって一冊読み切り、他の人に書評を批評してもらい、書評がよくなっていくことをだんだんに実感したようです。最後の締めくくりのことばは「この授業、とても楽しかったです」でした。丹羽さんには申し訳ないのですが、この学生の文章の方が私の心に響いたのでした。

三重大学 教養教育機構長
井口 靖
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