三重大学 教養教育機構 機構長だより
2015年6月 記事一覧

教養教育を受講して

新しい教養教育カリキュラムが始まって、2か月が過ぎました。先日、ある学部に呼ばれて一年生向けに教養教育の理念などについて話をしてきました。今頃何しに来た?と帰れコールでも起こるのでは・・・とやや躊躇したのですが、学生たちは予想以上に熱心に耳を傾けてくれました。

話をするにあたって、昔の教養教育の履修案内を見直してみました。1987年の『一般教育学修案内』を見てみると、どの学部も人文、社会、自然分野から最低8単位ずつ、第2外国語も含めて「一般教育科目」だけで36単位履修することになっています。「大学設置基準」に従い、当時は全国の大学でそうなっていたのです。

1992
年以降は大学が一般教育の内容や単位を自由に決めることができるようになりました。その結果、三重大学では以前の「一般教育科目」にあたる科目が学部によっては半分以下にまで下がっています。これにはいろいろ理由があると思いますが、ひとつは「なんのために教養教育は必要なのか」ということに私たちが十分に答えてくることができなかったからだと思います。

さて当日の話ですが、日ごろから「アクティブ・ラーニング」を叫んでいる手前、一方的に話をするのはよくないと思い、用紙を配布して、2か月間受講しての教養教育の印象を書いてもらったあと、

・三重大学が育成の目標にしている4つの力を書いてください。
・教養教育共通カリキュラムの理念を2つ書いてください。

と言ってみました。さすがに、4つの力(感じる力、考える力、コミュニケーション力、生きる力)はスタートアップセミナーで毎週言われているからでしょう、すらすらと書いていましたが、「共通カリキュラムの理念」では鉛筆が止まっているようでした。

中央教育審議会や日本学術会議など全国的にこれこれのことが言われていて、三重大学の学生にぜひともこうなってほしいと思って「共通カリキュラムの理念」を立てたのです、と説明しました。

・グローバル化に対応できる人材の育成
・自律的・能動的学修力の育成

最後に感想を書いてもらったのですが、「なぜこのような教養教育を受けているのか理解できた」「教養教育について熱心に考えていることがわかり、やる気が出た」「自分から学ぶことが必要だとわかった」などの意見がいくつもありました。おそらく入学時にこのような話をしてもだれも聞いてくれなかったと思いますが、実際に授業を受けてきて、多かれ少なかれ何のために教養教育があるのだろうと感じていた時期だったからこそなのだろうと思います。

私も、今回、自分の体験と照らし合わせてこそいろいろなことが意味を持ってくるのだと再認識しました。それこそがアクティブ・ラーニングの一つの要素でもあると思います。そして、私たちも教養教育はどうあるべきか、アクティブに考え続けていかなければならないと気を引き締めました。

アクティブ・ラーニング

528日、29日、盛岡で国立大学教養教育実施組織会議が開催され、参加してきました。全国の国立大学の教養教育の代表者が集まって、情報交換をしたり、議論をしたりするものです。その全体のテーマが「教養教育におけるアクティブ・ラーニングについて」でした。「アクティブ・ラーニング」というのは、「学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修」(中央教育審議会『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて』平成24年) とされています。

その報告で印象に残ったのは、1年生全員がグループに分かれて被災地を訪問し、岩手県の復興に自らが何をすべきか、何ができるかを考えるという岩手大学の授業です。現地の人たちが毎日さまざまな決断や選択を迫られているのを認識したり、災害時には自ら行動を起こさなければならないことを肌身で感じたという報告でした。

三重大学でも従来から「スタートアップセミナー」でアクティブ・ラーニングを実践してきました。今年度からはそれが後期の「教養ワークショップ」につながっていきます。実は、私は今年「スタートアップセミナー」のある授業をほぼ毎週参観させてもらっています。午後の健康科学の実技のあとの時間帯のようで、後ろで見ていると、教員が説明している間は次々と意識を喪失していくのですが、3~4人のグループ活動になるとにわかに元気になって、仲間とわいわい議論をしたり、情報を検索したり、メモをとったりしています。

私自身、学生時代を振り返ると、感銘を受けて鮮明に記憶に残っている講義ももちろんありますが、結局本当に自分のものになっているのは、講義で刺激を受けて自分で勉強したもののような気がします。教員の役目としてはいかに学生を刺激して、アクティブに勉強してもらうかということなのでしょう。その意味ですべての授業がアクティブ・ラーニングを目指さなければなりません。

ところで、盛岡では会議のあと、宮沢賢治も愛した小岩井農場まで足を延ばしてみました。岩手山を背景にした美しい緑の牧場で羊たちがのんびり草を食んでいました。その様子にすっかり癒されましたが、彼らもそのうち牧羊犬がやってきて追いたてられる運命にあるようです。

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三重大学 教養教育機構長
井口 靖 

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