歩く前に読む、歩いてから読む
先日、用事で仙台に行ったとき、鳴子温泉まで足を延ばして、「おくのほそ道」を歩いてきました。松尾芭蕉が歩いた出羽街道中山越と呼ばれる旧街道が整備されていますが、難所で、かつ、関所を抜けるのがたいへんだったようで、その日泊まった家で詠んだ有名な句があります。
鳴子の湯より尿前(しとまえ)の関にかかりて、出羽の国に越んとす。このみち、旅人まれなる所なれば、関守(せきもり)にあやしめられて、やうやうとして関を越す。(後略)
のみしらみ 馬の尿(バリまたはシト)する 枕もと
私もほとんど人には出会わず、「熊に注意」の看板と「アブに気をつけてください。Gパンの上からも刺します。」という案内所の人の注意にびくつきながらもなんとか難所を越えました。念のため、熊よけの鈴はつけて歩きましたが、森に響くチリンチリンという音色がなぜか安心感と励ましを与えてくれました。
その夜、芭蕉翁には申し訳ないことに、温泉につかって、仙台牛でビールを飲みながら、「奥の細道」を読み返しておりました。教科書にも載っていましたし、今まで何度か読んだことがありましたが、実際に歩いてから読む「奥の細道」はまたちがった感慨を与えてくれました。
ところで、教養教育機構では、11月14日~18日に「教養教育ウィーク-Freshmenの気分-」と題して、市民向け公開講座を開催します。市民の方にも三重大学の教養教育を体験いただき、来年度には授業にも参加していただければと思っています。学生たちにとっては、大学の授業は社会という道を歩く前の読書のようなものでしょうが、市民の方には、歩きながらの読書、あるいは、歩いた後の読書ということになるのではないでしょうか。きっと昔受けられた授業とはちがう見方を手にされることと思います。講師は(私を除いて)新進気鋭の教員ばかりで、内容もその分野の最先端を扱っています。詳しくは次をご覧ください。
https://www.ars.mie-u.ac.jp/event/class/201611.html
平均寿命が50歳にも満たなかった時代、芭蕉は46歳で奥の細道の旅に出ました。私の授業にも退職されてから通ってくださる方が何人もいらっしゃいます。ごいっしょに「教養の道」を歩いてみませんか。私もせめて熊よけの鈴となってお供をいたします。

三重大学 教養教育機構長
井口 靖
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