わくわくする授業へ
今年も11月13日から17日まで市民向け公開講座を開講しました。6講座開講し、延べ90名以上の方にご参加いただきました。受講者から途切れなく質問が出る授業もあり、市民の方の熱意に圧倒されました。私もいくつか参加し、久しぶりに学生気分でした。ただ、申し訳ないことに、おもしろいのについ睡魔に負けそうになることがありました。教師として授業をしているときには、眠っている学生がいるとむっとするのですが、聞きたくても眠ってしまうということはあるのだとあらためて気づきました。見たい映画なのについ眠ってしまうこともありますから。ハイドンの交響曲第94番は「びっくり交響曲」とも呼ばれていますが、それは居眠りしている聴衆を起こすために途中で大音量の部分を入れたためとも言われています。授業でも時々「びっくり」を入れないといけないのかもしれません。
眠らせないどころか、学生自ら授業を作り出していく方法として、本学では昔からPBL(Problem-Based Learning,Project-Based Learning)形式の授業を取り入れています。PBL教育もいろいろあるようですが、基本的には学生自身が課題を発見し、それをグループで議論してその解決方法を発表するという授業です。豊田元学長が2008年のブログで、医学部では1997年からPBL教育を取り入れ、医師国家試験でいい結果を出し、それを全学に展開しているとしています。医学であれば、ある症例について学生が自ら調べて原因をつきとめるというようなことになるのでしょう。当時の共通教育(教養教育)にも取り入れられ、2006年には二十数コマのPBLセミナーが開講されています。その後、PBL形式のスタートアップセミナーが開講されたり、詳細なマニュアルが作られたりして、「PBLの三重大」と言われるようになりました。しかし、その後いろいろな事情でやや停滞気味でした。
来年度それを新たな形で再スタートさせようということになり、全学の会議でPBLセミナーの定義とガイドラインを定めました。その中で、担当者は事前にFD研修に参加することが望ましい、とされています。そこで、先日その事前FD研修会を開催しました。全学でPBL教育を推進するプロジェクトチームと来年度PBLセミナーを担当する教員の間で具体的授業内容について議論をしました。「専門知識がない学生に教養教育としてどのように問題を発見させたらよいのか」「論文を読ませて問題発見をすることもありえるのか」「理系の場合、決まった答えがある場合があり、だれかがそれを見つけてしまったら終わりになるのではないか」というようなPBLの根本的な問題から、「グループ学習やプレゼンに抵抗がある学生にどう対応するのか」「そもそもどうやったら新入生がこの授業を履修してくれるのか」などの現実問題まで、会場も交えて白熱した議論になりました。私たち自身が授業としての課題を発見し、解決を模索したことになります。
この「機構長だより」を高校生の方がご覧になっているかどうかはわかりませんが、入学されたら来年度ぜひ受講していただきたいと思っています。単に授業を聞いているだけよりは、ちょっとだけ労力が必要かもしれませんが、教員と身近に接することができ、他学部の学生とも知り合いになれ、そして何より社会に出てもきっと役立つ力を身につけることができるとお約束できます。この研修会では私もわくわくして時間を忘れました。この授業に参加する人は絶対にわくわくするに違いありません。実はこの直前まで私は体調がいまひとつすぐれず、参加するのも億劫だったのですが、このあとはスキップして帰りたい気分でした。きっと忘れられない授業になると思います。
なお、この授業ではハイドンのような「びっくり」は必要ありません。なぜなら受講者はみんな聴衆ではなく、演奏者ですから。

三重大学 教養教育機構長
井口 靖
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