犯罪の心理と学生の心理
後期の授業も終わりました。新書を読んで書評を書く「教養ワークショップ」も2年目を終了しました。これまでいっしょにこの授業を作り上げてきた教員の何人かがこの3月で別の大学に移ることになっています。そのうちのひとりは異動先の大学の新入生ゼミでも同じようなことをやりたいと言っています。さらには、別の学部の教員もこの授業のようなことをやりたいので詳しく教えてほしいと言ってきました。そうやって、この授業の種があちこちに散らばって、それぞれの風土に合った芽を出して育っていけばすばらしいと思います。
さて、まだ全体の集計はできていないのですが、私のクラスでは各グループで選ばれた新書は次のようなものでした。
養老孟司『いちばん大事なこと―養老教授の環境論』集英社
四方田犬彦『テロルと映画―スペクタクルとしての暴力』中央公論社
原田隆之『入門 犯罪心理学』筑摩書房
鈴木孝夫『日本人はなぜ英語ができないか』岩波書店
山本太郎『感染症と文明―共生への道』岩波書店
それぞれグループで真剣に議論を重ね、最後には各々が書評を仕上げました。最初は、中学生の感想文か!と心配していましたが、ところが、最後はどれも書評として十分通用するものになっていました。学生たちは時折豹変します。
グループで上の本を読んできたわけですが、最後の授業では、それぞれのグループからひとりずつ出てきて新たに5つのグループを作り、そこでそれぞれの本を紹介するビブリオバトル(http://www.bibliobattle.jp/)をやってもらいました。一部欠けるところ、重なるところも出ましたが、基本的に新グループには上のそれぞれの本が含まれています。
そして、各新グループで最も読みたい本「チャンプ本」が選ばれたので、「チャンプ本」が集まってみんなの前で「グランドチャンプ本」を決めることにしました。ここで予想外のことが起こりました。なんと4グループで『入門犯罪心理学』が選ばれてしまったのです。それほど犯罪心理に興味があるのか、それとも、この本が魅力的だったのか、あるいは、この本を選んだグループが特に優れていたのか。ちなみに、もうひとつ選ばれたのは『日本人はなぜ英語ができないか』ですが、実はこれが選ばれたグループには『入門犯罪心理学』の学生が欠席でいなかったのです。
確かに、犯罪心理学グループはリーダーがしっかりリーダーシップを発揮し、メンバーもきちんと議論をしているように見えました。また、あとで完成した書評を見てみると、どれも完成度の高いものでした。グループでお互いを高め合った結果と言っていいのではないでしょうか。
一瞬迷いましたが、まあ、やってみようよ、とグランドチャンピオン戦をやりました。全員による最終投票は周りに引きずられないようにクリッカー(https://www.ars.mie-u.ac.jp/director_blog/post_18.htmlを参照)を使いました。そうしたら、なんと『日本人はなぜ英語ができないか』がちょうど半数の票を獲得して「グランドチャンプ本」に選ばれたのです。総数としては同数なのでふたつの本が選ばれたとも言えます。
それにしても、『日本人は...』が本当に読みたくなったのか、それとも、同じ内容を4回も聞いて飽きたのか、あるいは、単に票が割れただけなのか。ひょっとしたらそこに何か気遣いのようなものがあったのかもしれません。学生たちの心理もまたわからないところがあります。

三重大学 教養教育機構長
井口 靖
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