ドーピングやる?
まもなくリオデジャネイロ・オリンピックが開会するというのに、ロシアの組織ぐるみのドーピング疑惑とIOCの対応で世界が大揺れしているようです。ドーピングがいけないことだと知らない人はいないはずなのに、なぜ起こしてしまうのでしょうか。
来週8月1日から定期試験が始まります。恥ずかしいことですが、これまで学内で何度か不正行為、つまりカンニングなど、が起こってきました。カンニングがいけないことだと知らない学生はいないはずです。それなのになぜ起こしてしまうのでしょうか。
レポートの不正もあります。教養教育の1年生全員必修の教養ワークショップでは各人に書評を書かせることから、研究倫理教育も行っています。教科書の『レポート作成ハンドブック』の中にも今年から研究倫理のコラムを載せました。また、読みながらメモをとる「読書シート」(写真)はコピペを防ぐため、あえて手書きとしています。これで今後この授業を含め、不正がすべてなくなれば問題ありませんが、なかなかそうはいかないでしょう。これだけ言われていても、教員自体日本のどこかで毎年研究不正を起こしているくらいですから。
ちょっと前に『大人になるためのリベラルアーツ―思考演習12題』(石井洋二郎/藤垣裕子著、東京大学出版)という本が送られてきました。東大の後期課程向けの教養教育の授業を記録したものですが、そこでは毎回ひとつのテーマについて大学院生も含めた各分野の学生たちが議論をしています。その最初のテーマが「コピペは不正か」というものです。ここで興味深いことは、コピペはいけない、と決めつけるのではなく、なぜいけないかを根本から考え、議論しているところです。
私は、教養ワークショップの中でも、学生になぜコピペがいけないのかを議論させてみたらどうだろうかと考えています。コピペを根絶するためには、コピペはだめだと単に押し付けるのではなく、ひとりひとりの学生に、それがなぜいけないのかを本当に納得させなければならないでしょう。それで簡単に解決するものではないでしょうが、少なくとも考えることに意味があると思います。
ドーピングの場合は薬が選手の体を蝕むということがまずあるでしょうが、必死に努力してきた他の選手たちへの裏切り行為という面もあると思います。そして、ルールに基づいて行うというスポーツそのものの否定でもあります。そう考えると、試験での不正行為も同じで、まじめに勉強してきた同級生たちへの大きな裏切り行為であると同時に、授業をやってその成果を評価するという大学のシステムそのものの否定でもあります。
それでもあなたはドーピングやりますか。

三重大学 教養教育機構長
井口 靖
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