忘れられない授業
三重大学では3月25日学位授与式(卒業式)が行われました。三重大学にはいつまでも忘れられない授業があったでしょうか。
私は毎年1年生向けに「異文化理解」で、ドイツ語の文法、講読、会話の授業をしています。自慢のようになりますが、Power
先日ある教養教育のシンポジウムに参加したとき、突然「これまでに最も学んだと感じた授業は何ですか?」という課題を与えられ、隣の人とその時のことを話し合うように指示されました。私は大学3年生のときに受けたある講義を思い出しました。
その講義は大講義室で、先生はノートを見ながら、板書しながら静かに説明をしていくという極めてオーソドックスなものでした。当時はもちろん「アクティブ・ラーニング」などというようなことばはなく、学生はただひたすらに授業を聞き、ノートを取っていました。でも、私はその先生の真摯な姿勢に心を打たれ、あるとき、その先生独自のするどい考察を聞いたとき、全身が震える思いがしました。そのときかもしれません、学問の道を目指そう、と思ったのは。そして、いまだにそのテーマを私は追い求めています。
シンポジウムではその話を隣の初対面の女性にしました。そうしたら、その女性はこうおっしゃいました。その先生は黒板に向かって授業をしているような人だった、でも、きちんと組み立てられた授業とその中で言われたことばで、自分は絶対この分野を研究しようと思った。ほとんど同じような体験に私は驚きました。その方の先生もチョーク一本でひとりの人生を変えてしまったのです。
最近、ある授業の参観をしたときのことです。その授業では先生が黒板に問題を書き、学生がそれを解く、しばらくして先生が説明をしながら解答をする。その繰り返しでした。学生が指名されることはありませんでした。このアクティブ・ラーニングの時代になぜ指名もしないのか聞きました。そうしたら、このクラスはこの科目の苦手な学生が集まっている、指名すると二度と来なくなる、まず授業に参加させる、問題はそんな学生でも解けるように作ってある、とおっしゃいました。確かにそれで学生が自信を持って自分で勉強するようになったら、結果としてアクティブ・ラーニングなのかもしれません。
今はさまざまな機材があって、授業にいろいろな工夫が可能です。授業を魅力的にするためにできる限りのことはすべきでしょう。しかし、真の「アクティブ・ラーニング」とは学生を無理やり授業に引きずり込むことではなく、その授業を受けて学生が自分から勉強しようと思うことに相違ありません。内容と人格さえあれば、あとはチョーク一本だけあればいいのかもしれない。ただ、私は到底チョーク一本では戦えそうもなく、やっぱり最新兵器で完全武装して教室に向かうしかなさそうです。

三重大学 教養教育機構長
井口 靖
- 記事一覧
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- シェフィールドにて⑤:ストライキ、そして最後に
- シェフィールドにて④:puddingの文化
- シェフィールドにて③:タクシードライバーの英語論
- シェフィールドにて②:学生と市民(続き)
- シェフィールドにて①:学生と市民
- Japan for the world
- 隠れキリシタン
- たからもの
- わくわくする授業へ
- 悔い改めよ!
- 評判の悪い授業
- バベルの塔
- 役に立たない授業
- 沈黙のコミュニケーション
- 寄り道、回り道
- 命を懸けて授業をする
- 犯罪の心理と学生の心理
- 引っ張る力
- 越えられない壁
- グループ活動を通して学んでほしいこと
- 歩く前に読む、歩いてから読む
- ドーピングやる?
- ふたたび石段を登る
- 嫌われる勇気
- 新書を読んで書評を書くという授業
- 忘れられない授業
- 石段を登る
- グループワーク
- 私たちの夢
- 解けない課題
- 何のために学ぶのか
- アクティブな読書
- 生きる力
- PBLセミナー
- あだ討ち
- 教養教育を受講して
- アクティブ・ラーニング
- 召し上がれ
- 見る目
- 空気を読む
- ようこそ!