空気を読む
4月7日は70年前戦艦大和がアメリカ軍の攻撃を受け沈没した日なのだそうです。授業でコミュニケーションの話をするときに私はいつもこの大和の話から始めます。
山本七平さんの『「空気」の研究』(文春文庫)という本があります。そこでは戦艦大和の出撃に関する文藝春秋の記事をとりあげ、当時軍首脳部はだれもが大和が出撃すればアメリカ軍の総攻撃を受けることはわかっていた、にも関わらず「全般の『空気』よりして、当時も今日も(大和の)特攻出撃は当然と思う」とある関係者は述べているのだと言います。そして、「空気」とは「非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ『判断基準』であり」、それに抵抗する者は「社会的に葬るほどの力をもつ超能力」であるとしています。
大和の沈没により三千名以上の乗組員が亡くなったといいます。たかが「空気」がそんなに多くの人を死に追いやってしまったのでしょうか。実はこの本は40年近く前に発行されたものです。すでに当時から山本さんは「空気」の持つ恐ろしさに気付いていたのです。冷泉彰彦さんは『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)という本の中で、たとえば、いじめは「場の空気」によるものだとしています。逆らい難い「空気」という力は確かに今もごくふつうにあるだろうと思います。
三重大学は基本的な教育目標に「4つの力の育成」を掲げています。4つの力とは「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」とそれらを総合した「生きる力」です。「コミュニケーション力」というのはことばだけの問題ではないと思います。どんなにすばらしい意見であっても、その場の流れによって、生きることもあるし、無視されることもあります。コミュニケーションにとって「空気を読む」ことは基本的なことと言っても過言ではないでしょう。ですから、空気は読まざるをえません。ただ、空気に流されてはならないのです。
私自身、大和のことを思い出すたび、時には「すみません、ちょっと待ってください」と言える勇気を持ちたいと思うのです。たとえKYと言われても

三重大学 教養教育機構長
井口 靖
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