1990年代の話になりますが、イギリスで開催された学会のディナーにスープが出ました。異常に塩辛くとても「食べ」られたものではありませんでした。ほとんど残してしまったように思います。通常出されたものは残さず食べる主義なので、尋常ではない塩分でした。しかし隣に座っていたイギリス人は平然とそのスープを口に運んでいました。イギリス人は多少不快なことがあっても平静を装っていることが多いので、思い切って塩辛くないかと訊いてみたら、そうでもないとのこと。真意は分かりませんでしたが、彼はそのスープを平らげてしまいました。
当時、イギリスの街中の至る所にフィッシュ&チップスショップがありました。フィッシュ&チップスというのは、衣をつけた鱈を揚げたものと太切りフライドポテトのことを指します。地元の人たちは、揚げたてのフィッシュ&チップスにザザっと大量の塩をかけ、それは美味しそうに頬張っていました。ちなみに現在はフィッシュ&チップスショップの代わりにお洒落なヨーロッパ大陸風のカフェが増えました。
さて、この塩分の摂りすぎは深刻な問題だったらしく、イギリスでは国を挙げて大幅な減塩を実施しました。各種食品業界も協力し、例えばパンについては2001年と2011年を比較すると約20%の塩の削減に成功しました。今では日本のパンと比べるとイギリスのパンの塩分が低いので、現地でサンドイッチを買って食べると、薄味だなあと思います。ケチャップの塩分も日本の半分とのことです。
さてこの減塩ですが、毎年少しずつ減らされました。徐々に減塩すると消費者が気付かないという研究結果に基づき、毎年段階を踏んで減塩した結果、混乱なく実施され、その見返りとして医療費の大幅削減に成功しました。
削減といえば、我が国の国立大学の予算も2004年の法人化後、年々削減されており、法人化当時と比べると相当数の教職員が減ったばかりでなく、教育研究に使える予算も削減されています。イギリスでの減塩同様、毎年少しずつ削減されているので、年単位での変化にはあまり気付きませんが、2004年度と比べてみるとかなり減っています。教養教育について言えば、提供する授業の種類と数が減り、そのことでクラスサイズが大きくなっています。イギリスの減塩のように減らすことで良い効果があればいいのですが、教育研究の予算削減は質の低下に直結します。なんとか質を維持し、できるところについては改善するように努めてはいます。
後期から全1年生必修の教養ワークショップが始まります。この授業では新書を読ませ、書評を書かせています。三重大学の教養教育の質の改善の一環として5年前に始まった授業です。学生の中には新書を読んだことがない者が一定数います。また、能動的に読む訓練を受けていない学生もいます。手書きの読書記録をとりながら新書を読むことで、論点整理をする。それを基に要約を書き、さらには批評を書くことができる力の基礎を身につけることがアカデミアの世界ばかりではなく、良識ある市民になるためにも必要な教育だと信じ、痩せ細っていく教養教育にあっても維持・改善を続けていきたいと考えています。
イギリスのフィッシュ&チップスのことを書いたら無性に食べたくなってしまいました。しかし、いざ現地行って食べると衣や付け合わせのソースの味があまりにも薄いので思いっきり塩を振ってしまいます。減塩に慣れてないので仕方ありません。慣れて良いものであってもいきなりは無理のようです。
慣れた味:日本のサンドイッチ