日本の英語教育では、アメリカ英語が使われることが圧倒的に多く、イギリス英語に触れる機会はあまりないように思います。歴史的な背景、また、米国の日本への政治・経済面での影響によるところが大きいのでしょう。しかし、地理的な広がりから見ると、イギリス式の英語を使う国が多くあります。アメリカ英語とイギリス英語では、発音の他に語彙も異なります。日常的な例を挙げると、アメリカ英語では、日本のポテチ(ポテトチップス)のことを"(potato) chips"と表現します。つまり、日本語のポテチはアメリカ英語由来です。一方、イギリス英語では、ポテチは"crisps"と呼ばれ、"chips"はフライド・ポテトのことを指します。語彙の違いは数え切れない程ありますが、今回取り上げたいのは、ある英語の動詞のイギリス特有の用法です。
イギリスでは、大学で〇〇学を専攻していることを表現する際に、動詞"read"を用います。専攻が生物学の場合には、"I read biology at △."となります(△に大学名が入ります)。個人的に、この"read"の用法をとても気に入っています。大学の「学び」で求められていることを端的に表しているからです。つまり、読むことが学問の基本だということです。「読む」際に問題となるのは、その対象と方法です。大学という文脈の中での読む対象は、それぞれの学問分野の入門書から始まり、最新の研究成果が掲載されている専門書や学術雑誌です。分野によっては、各種資料も含まれるでしょう。
インターネット上の情報が膨大なものとなり、また、たやすく情報が入手できることもあり、情報収集のためにインターネットを使うことが多くなりました。大学初年時の教養教育の授業でも、インターネットに頼りがちです。しかし、インターネット上の情報の信憑性・信頼度を判断するには、それなりの専門知識が必要です。そこで、図書館で資料を調べるように指導はするものの、延々とネット検索する学生がいます。しかも、スマホで。このような状況では、読む対象となる文献や資料を、教員側で選定・限定する必要があるようです。手取り足取りですが、ネット世代の初年次教養教育では仕方ないことなのかもしれません。
2点目の読む方法ですが、ただ漫然と読むのではなく、レポートを書くために、もしくは、プロジェクトとしてまとめるために読みます。そのためには、能動的な読みが必要です。読みながら考え、考えながら読む。つまり、論点整理をしながら読むことが大学での読みの基本です。読んだ内容を、書かれている順に、ほぼ引き写しのようにしかまとめられないといったことがないように、1年後期の教養ワークシップでは、読書ノートをとりながら新書を読み、その読書ノートに基づき要旨を書き、さらにそれを書評としてまとめる練習をしています。
などと「読む」ことについて偉そうなことを書いたのですが、大学教員としての本来の仕事ではないことをする年月が長くなるにつれて、図書館から遠ざかってしまっています。それでも時折、調べもので図書館に行くことがあります。図書館特有の本の匂いの中で資料を読んでいると、本来の仕事からいかに遠ざかっていたのかを実感します。つい先日も、久しぶりに図書館に行ってみると、思ったよりも多くの学生が熱心に勉強をしていました。おまえは一体何を読んでいるのか("read")、と自問自答し、いささか恥ずかしくなりました。