教養教育の新カリキュラムと同時に開始された英語特別プログラムでは、希望者を対象にイギリスのシェフィールド大学で3週間の研修を行っています。今回の研修で4回目になります。三重大学での英語特別プログラムのカリキュラムを1年間受講した総仕上げとして、この研修を位置付けています。英語特別プログラムでは、英語の授業の他にアクティブラーニング科目や講義科目も英語で受講します。その上での海外研修です。短期間であっても海外研修の効果が上がるものと期待しています。
さて、今回の研修に参加している学生達は、2月22日に三重大学を出発しました。3月17日に帰ってきます。これまでで最も多い74人の学生が参加しています。学生の殆どが未成年ですので、本学の教員も3名同行しています。最近の若者は内向きだと言われていますが、環境を整えると外に出て行く者がそれなりの数いることが分かります。
研修に向けて、各種オリエンテーションを行っています。出発まで2週間になった先日、最終オリエンテーションが学内でありました。その際に院長として挨拶を頼まれたので、原稿を用意しながら、そもそも何故このようなプログラムを計画したのか再度考えてみました。そして以下のような話をしました、
フランス文学研究者で、現在、東京大学の理事・副学長の石井洋二郎氏は、我々にはいくつかの限界があり、そこから解放されるべきであると述べています。イギリス、シェフィールドでの研修で目指しているのは、主に2つの限界からの解放ではないかと思います。視野の限界と経験の限界です。3週間というとても短い期間ですが、異なった文化の中で、2つの限界を意識し、そこからの解放についても考えつつ過ごしていただきたいと思います。
先ずは視野の限界ですが、異文化の中に身を置くと、別の価値観があることがある程度明確に分かると思います。そこから自分の価値観を相対化していただきたいと思います。ただし、異文化の中に身を置いたからといって、自動的に自分の価値観が相対化されるものではありません。そこには当然、思考が伴います。異なっていることを認識するだけではなく、なぜ異なっているのかについてよく考えてもらえば、自己理解にもつながります。疑問が出てきたら関連する本を読んでみるのもいいでしょう。幸いなことにシェフィールド大学の図書館は使い放題です。もしくは、日本に帰ってきてから改めて考えるのでも良いかと思います。
次に、経験の限界からの解放ですが、皆さんに配布している研修用のハンドブックの冒頭には、お金と時間があれば誰でもできるような観光旅行ではなく、シェフィールドでしかできないことを経験していただきたいと書きました。過去3回の研修を見る限り、諸君の先輩たちは週末になると観光旅行に競って出かけていました。くどいですが、そんなことは社会に出て自分でお金を稼ぐようになってからでもできる体験です。みなさんにはシェフィールド大学の学生証が発行されます。大学の行事に参加することもでき、また様々な施設を使うことができます。短期間ですがイギリスの大学の学生として、また、ホームステイをすることによってしか経験できないことを通して、経験の限界からの解放を意識しつつ、過ごしていただければと思います。
たった3週間の研修でこれらの限界から解放されるということはあり得ないと思いますが、そのきっかけになればと願っています。