三重大学 教養教育機構 機構長だより

PBLセミナー

通勤の途中、ひまわりが咲いている畑があります。昔「ひまわり」という映画がありました。戦場に行ったまま戻らない夫を探して、妻がソ連へ向かいます。そこには画面を埋め尽くすひまわり畑があるのですが、哀愁を帯びたメロディーのせいでしょうか、この映画ではひまわりがとてももの悲しく見えるのです。正直言うと、私はこの映画はあまり好きではありません。

話が飛びますが、教養教育には「PBLセミナー」という授業があって、先日その成果発表会がありました。今年は日本史、地理学、比較文化論、心理学、政治学、数理科学の分野で9講座開講されました。PBLというのはProblem-Based LearningまたはProject-Based Learningの略で、「課題解決型学習」とされています。三重大学では最初は医学部の授業で導入されました。これこれの症状を訴える患者さんがいるなどの具体的な例について、グループで調べたり議論したりして、学生が主体的に学ぼうとするものです。

その後、大学としてこの授業方法を拡大することにし、いろいろな分野で行われるようになりました。いろいろなタイプの授業が試みられ、学生自らが問題を提起し、それの解決を目指すようなやり方も行われています。1年生が前期全員履修することになっているスタートアップセミナーも基本的にはPBL方式になっています。

「PBLセミナー」の発表会では、あるクラスが沖縄の基地問題をテーマとしていました。よく調べられ、よく考えられた発表だと思いましたが、それよりも驚いたのは、他のグループからそれに対してさまざまな質問や意見が出されたことです。激論とまではいきませんでしたが、沖縄の基地問題で質疑応答が交わされたことに感心しました。

私事になりますが、大学に入ったころ、学生運動はほとんど収まっていました。70年安保のデモも東大安田講堂に機動隊が突入したのもテレビで見ました。あさま山荘事件ではテレビが一日中中継を行っていたのは鮮明に覚えています。そのせいでしょうか、自分の時代のような気になっていましたが、よく考えるとすべてテレビの中の出来事でした。

すでに退職されている1世代上の先輩たちはそうではなく、実際にデモに参加したり、一晩中教室で政治の議論をやったり、そんなことがふつうであったようです。私たちのときにも、たまに、運動家らしき人が突然教室に入ってきて熱弁をふるうというようなこともありましたが、ほとんどの学生は冷淡でした。今の学生はもっと無関心かと思っていました。でも、近ごろは安保法案をめぐってデモに参加する若者も増えていると聞きます。ある学生に聞いたら、口には出さないかもしれないが、みんな関心は持っていると思うと言っていました。

私たちの世代は戦争を体験したわけでもなく、また、学生運動に参加したわけでもありません。そのようなことを経験として伝えることはできません。だからこそ、若いみなさんはこれから直面するかもしれない未知の問題に自分の力で立ち向かうしかないのです。安保法案も自分の問題だと思って、しっかり考えて、議論していただきたいと思います。ただ、私は、ひまわり畑はやはり明るく輝いていてほしいと思うのです。

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三重大学 教養教育機構長
井口 靖 

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