三重大学 教養教育機構 機構長だより
2017年5月 記事一覧

寄り道、回り道

 授業が始まって2か月が過ぎようとしています。教養教育前期はスタートアップセミナーが必修で、そこではグループワークが行われています。それが楽しいという人もいるでしょうし、いやだ、苦手だ、という人もきっといることでしょう。

 先日、教養教育の責任者が集まって「国立大学教養教育実施組織会議」が富山で開催されました。全体会議のテーマが「コミュニケーションを苦手とする学生への修学指導と成績評価」でした。本学にも報告が求められたので、心理学が専門の瀬戸美奈子先生に発表をお願いしました。今は全国的に「アクティブ・ラーニング」が推進されていますが、その有力な手法のひとつがグループワークです。確かに教師の話を聞いているだけでは受動的になってしまいますが、少人数のグループなら何らかの形で常に関わらざるを得ません。しかし、中にはあまりグループワークが得意でなかったり、場合によっては、まったくできないという人もいます。ここだけの話ですが、私もどちらかというと自分で勝手に勉強したい方です。

 ところが、社会はコミュニケーション能力を求めていますし、本学でも教育方針の「4つの力」の育成の中に「コミュニケーション力」が入っています。必ずしも入試で測定するわけではないので、コミュニケーションが苦手な学生がいるのは当然ですが、一方で、授業の到達目標はさだめられており、評価もそれに沿って行うことが求められますから、途中でどうサポートしていくかが課題です。その他のことでも他の人と同じようにできないことがあって悩んでいる人もいることでしょう。

 他の学生と同じことはできなくても、教師や他の学生がちょっと手伝うだけで一緒に活動できる場合もありますし、グループ活動にはコミュニケーションが苦手でもできる仕事があります。悩んでいる人は担当教員に相談してみてはどうでしょうか。

 さて、その富山からの帰り、福井で下車して、一度立ち寄りたかった永平寺に行ってきました。ふつう私はきちんと時刻を調べていく方なのですが、この日はなぜか行き当たりばったりで電車に乗ってしまいました。えちぜん鉄道で永平寺口まで行ったら、次のバスまで30分以上待たなければなりませんでした。歩いて1時間ということだったので、歩いてみることにしましたが、そんなもの好きな人は他にいないようです。地図もなく、方角もいささか怪しかったので、ちょっとだけ不安でした。

 でも昔からのものと思われるその道は山と小川の間を通り、途中にはいくつかの集落もあって、のどかでとても素敵な道でした。春のエゴノキと夏のウツギ(卯の花)の白い花が同時に咲いていました。かわいい野草があったので写真に撮ったり(写真:ミズタビラコ)、ウグイスが珍しく姿を見せていたので耳を傾けたりしていました。途中時々この道合ってるのかなと不安になることもありましたが、とても楽しい道だったので、最後には永平寺に着くかどうかはどうでもよくなっていました。

 ふと伊勢神宮や金刀比羅宮、延暦寺などはそのための鉄道が割と近く延びているのになぜ永平寺にはないのだろうと思いました。そうしたら、土手の上に自転車道があるのに気づき、それを辿って行ったらかつての線路跡であることがわかりました。やっぱりあったんだ。なぜ廃止に追い込まれたのかはわかりませんが、やはりここでも参拝が鉄道が延びる一つの要因だったのですね。

 途中は静かな山里でしたが、門前まで行くとたくさんの車やバスが止まっていて賑わっていました。気づくと駅を出て2時間近くたっていました。着くのは遅れたけどこの人たちが知らない素晴らしい時間を過ごせたんだと、ひとり得意になっていました。

 他の人とは違う道をひとり行くことは不安を伴いますし、勇気も必要です。でもそれは他の人が知らない世界を知ることでもあります。私が歩いた道ではところどころにお地蔵さんや観音さんがいて、この道でいいんだよ、ゆっくり行きなさいと言ってくれているようでした。私もそんなお地蔵さんのようでありたいと思っています。

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三重大学 教養教育機構長
井口 靖 

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