国立大学教養教育組織会議が全国の国立大学の持ち回りで毎年開催されており、今年は6月7日と8日の2日間、群馬県の高崎市で開催されました。1日目は学内で会議があったので、2日目からの参加となりました。高崎駅に着いたのは6月7日の深夜、もう日付が変わろうとしていた頃でした。
翌日は朝早くからジョギングを楽しみました。高崎駅近くのホテルを出発し、城址公園を通り抜ける際に目に入ってきたのは、少々古風なホールでした。群馬音楽センターという名称の群馬交響楽団の本拠地ホールです。群馬交響楽団のことはテレビの報道等で知っていたのですが、ホールのことはあまり知りませんでした。建物の側面はコンクリート打ちっ放しで窓もなく、殺風景な感じがしますが、正面にまわると全面ガラスが使われており、1961年の完成当時としては斬新なデザインだったのではないかと思いました。ジョギングからホテルに戻り、朝食をとりながら群馬音楽センターについて調べてみると、ボヘミア出身の建築家アントニン・レーモンドが設計したホールでした。
群馬音楽センター
三重大学には、このアントニン・レーモンドが設計した建物が残っています。三重大学附属図書館のホームページに概略が掲載されていますが。もともとは三重県立大学の図書館として建設されたようです。第二次世界大戦後、レーモンドが再来日して設計した初期の建築物です。群馬音楽センターはコンクリート建築物なので、素人目には両者にあまり類似点を見いだすことができませんでした。
三重大学レーモンドホール
さて、高崎のホテルで朝ご飯を食べながらさらに調べてみると、市内にもう一つレーモンドゆかりの建築物が残されていることが分かりました。市の美術館の敷地内にあります。上述の群馬交響楽団の創始者である井上房一郎がレーモンドの東京の自宅を再現したものとのこと。会議の後に訪れました。樹木が植えられた庭があり、とても高崎駅前とは思えないような空間です。建物のスタイルは三重大学のレーモンドホールに非常に似ています。軒(のき)が長く、引き違いガラス戸やガラス窓が多用されています。
旧井上房一郎邸
三重大学のレーモンドホールはキャンパスの外れた場所にあり、三重大学の数少ない歴史的な建築物にもかかわらず、教員が研究費で購入する物品の検収センターが併設されており、また、周りの環境も整備されているとはとても言えません。
2004年の国立大学法人化以降、教職員数は減り続け、予算も毎年削減され、地方国立大学の状況は厳しさを増しています。校舎の雨漏りの補修、エレベーター、エアコンといった基本的な設備の維持や管理すらままならない状況です。キャンパスの環境が荒むと、教職員や学生の心まで荒んでしまうような気がします。いかにして大学らしいキャンパス環境が実現できるのか、また、そのことにより地域にも貢献することができるのか。答えは簡単ではありません。
教養教育院では、11月に市民向けの公開講座を予定しています。このような講座をレーモンドホールで実施することができればと密かに思っています。講座の後に講師を囲んでコーヒーを飲みながら懇談することができれば、もっと言えば、いっそのことカフェにしてしまい、学生や教員が議論をしたり、本を読んだりできるような空間が実現しないかとも思っています。そのためには、キャンパス内でアクセスのよい場所に移築し、さらに、高崎の旧井上房一郎邸のように庭を作り庭木を植える等々、夢は膨らみます。
ちなみに東海地区では、名古屋市の南山大学がレーモンド・リノベーション・プロジェクトを立ち上げて寄付を募っています。南山大学のキャンパスはレーモンドが設計したもので、建物の修復と有効活用を提案しています。三重大学も貴重な財産を継承するばかりでなく、大学関係者や地域にとって今まで以上に有効活用できればと願っています。